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肺がんとは

1)肺の構造と働き

肺

肺は呼吸器系の重要な臓器であり、心臓、気管、食道などからなる縦隔(じゅうかく)という部分を挟んで胸の中に左右2つあり、左肺、右肺と呼ばれています。右肺は葉と呼ばれる3つの部分からなり(上葉、中葉、下葉)、左肺は右肺よりわずかに小さく上葉と下葉に分かれています。肺は身体の中に酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出します。空気は口と鼻から咽頭・喉頭を経て気管を通り、気管支と呼ばれる左右の管に分かれ左右の肺に入ります。気管支は肺の中で細気管支と呼ばれるより細い管に分枝し、木の枝のように肺内に広がり、末端は酸素と二酸化炭素を交換する肺胞と呼ばれる部屋となっています。

2)肺がんの発生

肺がんは気管、気管支、肺胞の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生します。最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでいますが、細胞がなぜがん化する(無秩序に増える悪性の細胞にかわる)のかまだ十分わかっておりません。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に拡がり、多くの場合、腫瘤(しゅりゅう)を形成します。他の臓器にがんが拡がることを転移と呼びます。

3)肺がんの統計

年齢別にみた肺がんの罹患(りかん)率、死亡率は、ともに40歳代後半から増加し始め、高齢ほど高くなります。死亡率の年次推移は、1960年代から80年代に急激に増加しましたが、90年代後半から男女とも若干の減少傾向にあります。
罹患率、死亡率は男性のほうが女性より高く、女性の3倍から4倍にのぼります。がんで亡くなった人数を部位別に多い順に並べると、肺がんは男性で第1位、女性で第2位です。罹患数と死亡数に大きな差はなく、これは、肺がん罹患者の生存率が低いことと関連しています。
男性の肺がん死亡率の年次推移を生まれた年代別に見ると、1930年代後半に生まれた人は低く、その前後に生まれた人は高い傾向があります。これは30年代後半生まれの世代は、生涯喫煙率(喫煙経験がある人の割合)が低いことと関連があります。
罹患率の国際比較では、日本人は欧米人に比べると低い傾向があります。がんの組織型では、近年、扁平(へんぺい)上皮がんに比べ、腺がんの割合が増加しています。

4)肺がんの組織分類

肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つの型に大きく分類されます。
非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型に分類されます。肺がんの発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などの臨床像は多彩ですが、これも多くの異なる組織型があるためです。腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めています。通常の胸部のレントゲン写真で発見されやすい「肺野型」と呼ばれる肺の末梢に発生するのがほとんどです。肺がんの中でも他の組織型に比べ臨床像は多彩で、進行の速いものから進行の遅いものまでいろいろあります。次に多い扁平上皮がんは、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの15%を占めています。気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなります。大細胞がんは、一般に増殖が速く、肺がんと診断された時には大きながんであることが多くみられます。
小細胞がんは肺がんの約15~20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんです。しかし、非小細胞肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいタイプのがんです。また、約80%以上では、がん細胞が種々のホルモンを産生しています。しかし、ホルモン産生過剰による症状があらわれることはまれです。

5)肺がんの原因と予防

肺がんのリスク要因を考えるうえで、喫煙習慣を切り離して考えることはできません。非喫煙者に対する喫煙者の肺がんリスクは、欧米では20倍以上とされていますが、日本ではそれよりも低くなっています。日本人を対象とした疫学研究のメタ・アナリシス(2006年)では、男性で4.4倍、女性で2.8倍という結果でした。また、組織型別では、扁平(へんぺい)上皮がんについては男性12倍、女性11倍であるのに対し、腺がんについては男性2.3倍、女性1.4倍と大きな違いが示されています。欧米では、たばこが肺がんの発生原因の90%とされていますが、日本では、男性で68%、女性では18%程度と推計されています。また、受動喫煙によって、肺がんのリスクが高くなるという科学的根拠は十分あると評価され、受動喫煙がない者に対し、20~30%程度高くなると推計されています。
その他、アスベスト、シリカ、砒素(ひそ)、クロム、コールタール、放射線、ディーゼル排ガスなどの職業や一般環境での曝露(ばくろ)、さらに、石炭ストーブの燃焼や不純物の混ざった植物油の高温調理により生じる煙(中国の一部地域)、ラドンなどによる室内環境汚染も、肺がんのリスク要因とする根拠は十分とされています。
野菜・果物の摂取、特に果物は、リスクの軽減につながっている可能性があるとされていますが、多くの研究で、喫煙など、別の要因による結果への影響を完全に取り除けていない可能性があり、十分とはされていません。野菜・果物の中の、どの成分が重要な役割を果たしているかについてはわかっていません。最も注目されたのが、抗酸化作用を持つβ-カロテンでしたが、欧米で喫煙者などハイリスク・グループを対象にして行われた、2つの無作為化比較試験の成績は、β-カロテンを多く摂取(1日20~30mg)すると、かえって肺がんリスクが20~30%程度高くなるという結果に終わりました。そのため喫煙者では、高用量のβ-カロテンは、肺がんリスクを高くする根拠が十分とされています。
他に、遺伝的素因として、発がん物質の代謝経路にある酵素の活性などを決める遺伝子多型が、いくつか候補に挙げられていますが、遺伝子関連の研究はまだ初期の段階にあり、根拠としては不十分です。

症状

なかなか治りにくい咳や胸痛、呼吸時のゼーゼー音(喘鳴:ぜんめい)、息切れ、血痰、声のかれ(嗄声:させい)、顔や首のむくみなどが一般的症状です。扁平上皮がんや小細胞がんに多い肺門型の肺がんは、早期から咳、痰、血痰などの症状が出現しやすいものです。腺がんに多い肺野型の肺がんは、がんが小さいうちは症状が出にくい傾向があり、検診や人間ドック、高血圧などの他の病気で医療機関にかかっている時に見つかることが多くなっています。ときに転移病巣の症状、例えば脳転移による頭痛、骨転移による腰痛などの骨の痛みなどが最初の症状である場合もあります。また、胸痛があらわれることもありますが、これは肺がんが胸壁を侵したり、胸水がたまったりするためです。その他、肩こり、肩痛、背中の上部痛、肩から上腕にかけての痛みもまれにあります。他のがんと同様に肺がんでも、易疲労感、食欲不振、体重減少があらわれることがあります。

小細胞肺がんは種々のホルモンを産生します。そのため、まれに副腎皮質刺激ホルモンによるクッシング症候群と呼ばれる身体の中心部を主体とした肥満、満月のような丸い顔貌、全身の皮膚の色が黒くなる、血圧が高くなる、血糖値が高くなる、血液中のカリウム値が低くなるなどの症候があらわれることもあります。その他、まれに抗利尿ホルモンの産生による水利尿不全にともない、血液中のナトリウム値が低くなり、食欲不振などの消化器症状や神経症状・意識障害が出現することがあります。この他、大細胞がんでは、細胞の増殖を増やす因子の産生による白血球増多症や発熱、肝腫大などがあらわれることがあります。

このように肺がんの一般症状は、風邪などの症状と区別がつかないことが多いので、なかなか治りにくい咳、血痰、胸痛、喘鳴、息切れ、嗄声、発熱などを認める場合には医療機関の受診をお勧めします。喫煙歴のある40歳以上の人は、注意が必要です。

診断

咳、痰などの症状がある場合、最初に胸のレントゲン検査をします。次にがんかどうか、あるいはどのタイプの肺がんかを顕微鏡で調べるため、肺から細胞を集めます。通常は痰の中の細胞検査をします。

がんのリスク要因・予防要因

肺がんのリスク要因を考えるうえで、喫煙習慣を切り離して考えることはできません。非喫煙者に対する喫煙者の肺がんリスクは、欧米では20倍以上とされていますが、日本ではそれよりも低くなっています。日本人を対象とした疫学研究のメタ・アナリシス(2006年)では、男性で4.4倍、女性で2.8倍という結果でした。また、組織型別では、扁平上皮がんについては男性12倍、女性11倍であるのに対し、腺がんについては男性2.3倍、女性1.4倍と大きな違いが示されています。欧米では、たばこが肺がんの発生原因の90%とされていますが、日本では男性で68%、女性では18%程度と推計されています。また、受動喫煙によって肺がんのリスクが高くなるという科学的根拠は十分あると評価され、受動喫煙がない者に対し、20~30%程度高くなると推計されています。

その他、アスベスト、シリカ、砒素(ひそ)、クロム、コールタール、放射線、ディーゼル排ガス等の職業や一般環境での暴露、さらに、石炭ストーブの燃焼や不純物の混ざった植物油の高温調理により生じる煙(中国の一部地域)、ラドンなどによる室内環境汚染も、肺がんのリスク要因とする根拠は十分とされています。

野菜や果物の摂取、特に、果物はリスクの軽減につながっている可能性があるとされていますが、多くの研究で、喫煙など別の要因による結果への影響を完全に取り除けていない可能性があり、十分とはされていません。野菜や果物の中のどの成分が重要な役割を果たしているかについては、わかっていません。最も注目されたのが、抗酸化作用を持つβ-カロテンでしたが、欧米で喫煙者などハイリスク・グループを対象にして行われた2つの無作為化比較試験の成績は、β-カロテンを多く摂取(1日20~30mg)すると、かえって肺がんリスクが20~30%程度高くなるという結果に終わりました。そのため喫煙者では、高用量のβ-カロテンは、肺がんリスクを高くする根拠が十分とされています。

ほかに遺伝的素因として、発がん物質の代謝経路(たいしゃけいろ)にある酵素の活性などを決める遺伝子多型が、いくつか候補にあげられています。遺伝子関連の研究はまだ初期の段階にあり、根拠としては不十分です。

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